認知症
認知症とは、大人になるまでに一旦獲得された精神機能が、徐々に衰え失われていくことにより、日常生活がこれまでのように送ることが出来なくなる、進行性の病気です。
認知症疾患には、いくつかのタイプがあります。
(1)アルツハイマー病
この病気の原因は諸説ありますが、現在のところはっきりしていません。
なんらかの原因で、脳神経が障害され、脳細胞が壊れてしまうことにより、脳が通常より早く小さくなってしまう病気です。記憶障害、特に最近の出来事に対する記憶(短期記憶)が障害され、多くの場合、緩やかに進行していくのが特徴です。
(2)脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などにより、脳の血管が広範囲に障害されてしまうと、脳の連絡機能が正常に働かなくなります。アルツハイマー病と比べ、急激に認知症症状が進んだかと思えばおさまったり、症状の進行が階段状にみられます。また、微細な血管が多発性に障害された際も、認知症症状がみられることがあります。初期の段階では、血管障害の治療、再発予防が重要になります。
(3)レビー小体型認知症
レビー小体という特殊なタンパク質が、大脳の神経細胞に付着することで、症状が発現すると考えられています。初期の認知症症状は、アルツハイマー病に比べると物忘れは軽いことが多く、そのかわり「虫」「いるはずのない人」などの幻視がみられることが特徴の一つです。また、レビー小体が脳幹に蓄積することで、パーキンソン症状が合併することもよくみられます。
(4)前頭側頭型変性症
上の認知症疾患と比べ、若年で発症する傾向があります。人格や行動を司る前頭葉と側頭葉が障害され、脳の萎縮がみられます。記憶は比較的保たれますが、早い段階で言葉が上手く出なくなるため、相手に自分の言いたいことを伝えることが困難となる傾向があります。また、人の言ったことをオウム返しする、同じ行動を繰り返すといった状態もみられます。
症状
認知症にみられる症状は、中核症状と周辺症状に分けられます。
中核症状
- 記憶障害
少し前のことを思い出せなくなります。
大事な物の置き場所を忘れる、同じ事を何度も聞く など- 見当識障害
日時や場所が分からなくなります。
朝と夜を間違える、どこにいるのか分からない など- 失語
言葉が理解できなくなったり、言いたい言葉が出てこなくなります。- 失行
頭では目的が分かっているのに、そのための行動がとれなくなります。
日常的に使う道具を正しく使えない、服を着られない など- 失認
見えている物が正しく認識できなくなります。
方向が分からなくなって道に迷う、椅子に座ろうとして尻もちをつく など- 実行機能障害
物事を計画的に段取りだててこなせなくなります。
料理の手順が分からなくなる、出かけるまでの準備に時間がかかる など
周辺症状
- 異常行動
徘徊や寝ぼけ、前頭側頭型変性症では万引きなどの社会的に問題となる行動がみられることがあります。- 幻覚・妄想
レビー小体型認知症では、前述のとおり、特徴的な幻視がみられます。
物をどこに置いたか分からなくなったり、預金をおろした事を忘れてしまったりすることで、「盗まれた」と思い込んでしまうなど妄想に発展することもあります。- 暴言、暴力
理性を保つことが困難になり、イライラして怒りっぽくなります。対応を間違えると、暴力に及んでしまう可能性もあり、注意が必要です。- うつ
認知症初期では、うつとの区別がつきにくいことがあります。
趣味を楽しむことがなくなる、ぼんやりすることが多くなったなど無気力な状態を認めることがあります。また、分からないことが増え、過剰に不安を感じてしまう方もいます。
検査・治療法
認知症の検査として、よく行われているものが、長谷川式簡易知能スケールなどの知能検査と、頭部CTや頭部MRIといった画像検査です。当院では、心理士による知能検査を受けて頂くことができます。画像検査が必要な場合は、該当設備のある医療機関へ紹介させて頂くことになります。
薬物療法としては、アルツハイマー病に対する抗認知症薬があげられます。但し、このお薬は認知症を治すものではなく、進行を少しでも遅らせるためのものです。周辺症状としてみられる幻覚妄想や興奮、うつなどの精神症状に対し、対症療法としてお薬を用いることもあります。
また、認知症の進行を予防するためには、薬物療法以外の介入がより重要になります。人と話をすることや脳を刺激するような運動、作業に取り組む機会をもつことはうつなどの精神症状の発生を防ぐ手立てにもなります。「回想法」という心理療法も有効であると考えられています。
最後に
認知症という病気は、進行してしまうと、本来のその人らしさが失われ、末期には寝たきり状態となり、体が衰弱して死に至ることも少なくありません。ゆえに、早期発見、早期予防が非常に大切となります。
以前と比べて元気がない、同じ話をするようになったなどの変化を感じたら、一度医療機関に相談してみるのもよいでしょう。